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「犢もこれにくらべれば…」―附箋を剥がす(『芥川龍之介全集 第1巻』)・続

附箋を剥がす(『芥川龍之介全集 第1巻』)」のエントリで、「もう少し気になったものもある」と書いた、その内の2つ、のうちの1つ。

が、相手の一人を殺し、一人を追払つた後で、犬だけなら、恐れる事もないと思つたのは、結局次郎の空だのみにすぎなかつた。犬は三頭が三頭ながら、大きさも毛なみも一対な茶まだらの逸物で、犢もこれにくらべれば、大きい事はあつても、小さい事はない。それが皆、口のまはりを人間の血に濡らして、前に変らず彼の足下へ、左右から襲ひかゝつた。一頭の頤を蹴返すと、一頭が肩先へ踊りかゝる。それと同時に、一頭の牙が、すんでに太刀を持つた手を、噛まうとした。(「偸盗」P252)


問題は、「犢もこれにくらべれば、大きい事はあつても、小さい事はない。」である。
犢(こうし)と比べられているのだから、もちろん大きいという表現ではあるのだけれども、犢よりは小さいと言っているのだから、何だか中途半端な感はある。
手許にあるちくま文庫版『芥川龍之介全集』を見ても同じである。この文庫版全集は筑摩類聚全集を底本としているから、それも同じなのだろう。
国立国会図書館のデジタル資料で唯一館外閲覧のできた昭和3年刊岩波文庫も同じ。
安直に青空文庫を検索して見ても本文は同じ…と思ったら、僕の持っている全集を底本としている岩波文庫(昭和35年刊)を底本としていたから当然ではある。
文庫本をほかに1~2冊持っていたはずだけれども、どこかにしまい込んでしまったものか見つからないので、自宅に居ながらにして確認できる範囲では、「大きい事はあつても、小さい事はない」なのに違いない。
何となくもやもやした思いは残るものの、芥川がそう書いたのならどうにも致し方がない。

(続く)

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